「どれも、ジダンは尋常ではない精神状態に見えた。よくいえば神憑っていたし、悪くいえばイってしまっていた。」

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星野智幸の日記 2006年7月10日(月)曇り


 ジダンは狂気の人である。
その別世界の出来事のようなファンタジックなプレーと
きわめて控え目な性格から、他のサッカー選手の尊敬を一身に集める一方で、
信じがたい凶暴なファウルを繰り返してもきた。
プレーのあのファンタジーととてつもない集中力は、
暴力的なまでの狂気で裏側から支えられている。
それまでヘディング・ゴールなんかありえなかったジダン
98年のワールドカップ決勝では2本も決めて優勝へ導いたこと、
2002年のチャンピオンズ・リーグ決勝の伝説のボレーシュート
2004年ヨーロッパ選手権イングランド戦で1点リードされながら
後半ロスタイムで劇的な逆転をなした異常なフリーキックとPK。
どれも、ジダンは尋常ではない精神状態に見えた。
よくいえば神憑っていたし、悪くいえばイってしまっていた。
 
 そういう時のジダンは危険である。
デシャンはそれをわかって常に落ち着かせようと配慮していたし、
おそらく98年レギュラーだったテュラムもわかっていたと思う。
今日の決勝後のテュラムの涙は、そのせいもあるのではないか。
 
 ジダンは今大会、決勝ラウンドに進んでから、
その神憑った状態に入りつつあった。
それがフランスを勝ち進めてきた。
試合を追うごとにジダンの顔から表情が消え、会見をしなくなった。
明らかに危険領域に入っていた。
決勝でもその状態は続き、延長前半には、
98年の再現かとこちらの心を色めき立たせるような
鋭いヘディング・シュートを放った。
 
「よくいえば神憑っていたし、悪くいえばイってしまっていた。」
この状態の時の心理状態の時、おそらく妙な全能感*1があるはず。
いわゆるZONEな状態なんだけど、ZONEな状態で予測不可能な事が起こって
クラッシュしたり負けたりしてしまうと、
とんでもない「これありえない感」というか、
自己存在の根底部分を否定されてしまったような感覚に襲われるらしい。
(バーチャハイ状態で、対戦に負けてしまった時とかにそうなるらしい。)
 ネトゲの対戦で極限状態でぶち切れる子どもの動画とかを見ていると、
どうも、その子どもがキレやすいだけじゃなくて、
このZONEに入っていた時に「普通じゃありえない」ことが
おきたような気もするんだけど…どうなんだろ。

 スポーツのフィールド内世界や、ビデオゲーム空間のように
情報が特定のルールに従って抽象化・象徴化されている空間だと、
なんとなくZONEには入りやすいような気はする。
 
ZONEについて、詳しくは、ちょっと古い雑誌記事だけど
http://www.number.ne.jp/special_features/2000.08.03/spe2_index.html
「超常領域「ZONE」はなぜ起こるか」はとても参考になる。


彼らの話を総合すると
(1)距離・時間軸のずれ
(2)スローモーション現象の出現
(3)過去の情報のフラッシュバック
(4)俯瞰体験
(5)周囲や自然との一体感
(6)人生のパノラマ回帰
(7)試合の支配感などである。
そして誰もが口にしたのは、今までに味わったことのないような
幸福感、多幸感、エクスタシーに包まれたという。
 
 これらの現象を一人で体験している選手がいた。
元F1ドライバーの片山右京である。
彼もまた皆と同じように、神憑(かみがか)りとか、
オカルトとか変人扱いされるのを恐れ、具体的に語ることはなかった。
なぜ、そのような現象が起こるのか、
最近は脳医学、運動生理学、心理学の面から解明されつつあるが、
その前に片山の体験談に耳を傾けてみたい。
 
(リンク先記事は消滅してます。
webarchiveのリンク
http://web.archive.org/web/20000929064827/http://www.number.ne.jp/special_features/2000.08.03/spe2_index.html
http://web.archive.org/web/20001018210759/www.number.ne.jp/special_features/2000.08.03/spe2_page2.html
http://web.archive.org/web/20010909191228/www.number.ne.jp/special_features/2000.08.03/spe2_page3.html
http://web.archive.org/web/20010909191228/www.number.ne.jp/special_features/2000.08.03/spe2_page4.html
http://web.archive.org/web/20010909191228/www.number.ne.jp/special_features/2000.08.03/spe2_page5.html
http://web.archive.org/web/20010909191228/www.number.ne.jp/special_features/2000.08.03/spe2_page6.html
http://web.archive.org/web/20010724122348/www.number.ne.jp/special_features/2000.08.03/spe2_page7.html
オリジナルは雑誌NUMBERの2000年8月3日号に所収されてるはず。)
 
あと、
http://nobee.com/old2/zone/zooehtml.html
『たのしい催眠術講座』「ZONE ジャック・マイヨール氏に捧ぐ」
なんかが参考になるかも。
 

*1:正確には、「見える、全て見える」状態なので、その状態を全能とすら感じず、ごくあたりまえのことが起こるだけのように感じる。